『怖い絵』中野 京子 ★★★★☆

怖い絵
西洋絵画20作品を解説した本ですが、描かれた時代の背景、絵の題材、題材の背景や解釈、画家、などで「怖い」側面を切り口に紹介しています。有名な絵が多くてとっつき易いし、特に時代背景や画家について「そうなんだ」という話が多くて面白かったです。(クノップフが描く女性が同じ顔なのは、下手な少女マンガ家みたいに顔のバージョンがないせいかと思ってたんだけど、違うんだ!同じ女性を描いてたんだ!とか。)
文章の表現力も豊かで、読んでいてワクワクする箇所も多かった。
何よりいいのは、「じゃあ、この画家のほかの絵もみてみたい」「この時代のことを、もちょっと知りたい」「題材の神話は?」というふうに、解説で閉じずに好奇心が広がるところですね。ゴヤとルドンの絵を色々見てみたくなりました。
ときどき、「そんなにムリヤリ怖がらなくても」というものもありましたが、文章に勢いと力があって、それもまた楽しかった。
特に笑えたのは、ティントレットの『受胎告知』という絵で、聖母マリアのところに天使たちが受胎告知しに大勢で押しかけるという構図ですが、この天使達とにかく数が多くてもちゃもちゃくっつきながら窓からなだれこんでいて、その様子を「イナゴ」「雲霞(ウンカ=これまた虫)」果ては「ゴキブリ」に喩えていて、思わず笑ってしまいました。
個人的には、画中の天使の中には、胴体がなくて頭の直下に翼がくっついているというものもいて、あれは不気味きわまりないと常々思っています。骸骨のバージョン(頭蓋骨+胴体なし+翼つき、お墓によく彫られている)の方が、よっぽどすがすがしいです。
シリーズで3まで出ているようで、あと2冊も楽しみです。(人気シリーズで、図書館の予約人数が多くてなかなか順番が回ってこないですが。)